2010年3月 3日 16:32

2008年版「このミステリーはすごい!」1位となった作品です。
昭和20年代から三代にわたって警官となった男たちの物語です。

何がスゴイって、安い警察小説と違い、英雄が一人もいないこと!
好きなんですよねぇ、英雄不在の小説って。
昭和の暗い部分を描き、そのなかで地道に生き続けた家族の歴史には、深みと重みがあります。
が、考えてみればこれって、みんなの家族が通ってきた道でもあるわけで・・・。
そう考えると、ひとしおな訳です。

身近な歴史には、英雄を見つけづらいものです。
でもこういった素晴らしい小説を読むと、地味な、普通の人々のなかにこそ、英雄が隠れていることを知り、胸が熱くなるものですね。

2010年3月 3日 16:15

著者はお茶の水女子大学の名誉教授で、英文学のほかにエディターシップ、思考、日本語論などの分野で、独創的な仕事を続けておられる方であります。

思考を寝かせ、発酵させて、あらたな発想作りに至るまでの経緯を、整理して述べてくれています。
独創的な発想を!などとお題目を唱えるごとくにおしつける教育法とは異なり、とても実践的で、ありがたい整理学であります。

30年近く前の著書だそうですが、グライダー人間なんて言葉、斬新すぎませんか?
今後も深い問題意識を持って、時間をかけて正していかなければならない、学校教育のあり方について、端的に述べた言葉だと思います。

2度3度と読んで、血肉にしていきたいものです。

2010年2月18日 16:34

ドクター・ケイ・スカーペッタの活躍する人気シリーズの最新刊です。
シリーズ最初の「検視官」が出版されたのが1990年、リアルタイムで読んできているので、登場人物たちとも20年来の付き合いということになります。

我が人生と同じように、さまざまな紆余曲折を経て、登場人物たちも歳をとり、危機や事件を乗り越えています。
もうほとんど友達のような感覚でいるので、前刊のようにマリーノが無茶する場面などは読んでいても大変苦痛でした。
コーンウェルも随分ひねくれて意地悪になってるなぁと、作者を恨んだこともありました。
でも、結局、人生ってそんなもんだよね。
という境地に至った頃あいに出た最新刊だっただけに、ひとしおでした。

愛読するシリーズものを幾つも抱えている私ですが、レギュラー陣にここまでいろいろやらせるのって、このシリーズだけです。
書く方も辛かっただろうけれど、登場人物たちは、きちんと成長しているようですね。
よかった。

2010年2月 8日 14:53

今日は『ミレニアム』です。
この作品は「ドラゴン・タトゥーの女」「火と戯れる女」「眠れる女と狂卓の騎士」の3部作として発表されています。
作者の構想としては5部まであったらしいのですが、第1部の発売前の2004年に作者が心筋梗塞でなくなってしまうという悲劇が。
私は現在、3部を読み始めたところなのですが、今から「う~、次が読みたい」と歯ぎしりしているくらいです。残念。

主人公のキャラクターがとても大胆で、それもそのはず、あとがきによると「長くつ下のピッピ」のピッピがイメージにあったとのこと。
最近スウェーデンの国民的作家リンドグレーンの大姪にあたる作家カーリン・アルヴテーゲンの小説を読んだばかりで、その面白さにリンドグレーンの作品を懐かしく思い出していたところなので、この「ミレニアム」もかなり面白く読みました。

そろそろリンドグレーンの作品をまとめて大人買いする頃あいのような気がしてきました。きっと宝物になると思います。

2010年1月20日 13:13

この「ボーン・コレクター」から始まったリンカーン・ライムシリーズは、
現在「ソウル・コレクター」という最新作も発売されて、
お馴染みのメンツに出会える喜びを感じている人も多いのでは。

スーパーマン役で知られたクリストファー・リーブが、
落馬で脊椎損傷して四肢麻痺患者となりながらも、
勇気をもって治療やリハビリにあたったということはご存知の方もいると思います。
この小説の主人公である科学捜査の天才リンカーン・ライムも捜査の最中の事故で、
四肢麻痺となり、絶望の淵に立たされています。

主人公の状況の奇抜さ、事件や犯人像の特異さ、
ストーリー展開の巧みさ、登場人物の造形などなど、
面白い要素が盛りだくさんの小説です。
それでも、創作テクニックよりも何よりも、
魂のこもった作品であると思います。
「仏つくって魂入れず」っぽい作品の多いなか、
人々の生き続ける姿が勇気をくれる最高の作品です。

2009年11月26日 16:05

今日は、NHKで小出しにドラマ放送しているアノ名作です。

ところで最近のテレビドラマの番宣。
あれは一体なんなんでしょうね。
俳優さんたちを使って本編より沢山流してるんじゃないかと思われるメイキング。
勘弁してほしいです。

司馬遼太郎という大作家の作品は、
どれもとても長くて、発表当時連載されていたせいか、
くどく何度もグルグル回ってる感じがするときがあります。
それでもグイグイ引っ張られるように読めてしまったのは、
本作と『翔ぶがごとく』の2作品です。

とくにこの『坂の上の雲』は、
バルチック艦隊との日本海海戦の様子が面白く、
何度も読み返してしまいました。
Z旗というもののことも初めて知ったし。
これがきっかけで横須賀の戦艦三笠にも行ってきました。
ともかくハマったということです。

司馬遼太郎というと、
教科書にのっていた『モンゴル紀行』の「草の草原」を思い出します。
と言っても、
タイトルは今回調べたのでわかったくらいで記憶になかったのですが、
夜空満面の星空のイメージだけはずっと覚えていました。
それくらい印象的な文章だったのだと思います。

2009年10月29日 16:40

今日は、ジョン・アーヴィングの、わりに地味な作品です。

いつも奇妙な人々がでてきますが、
今回も地味に奇妙な人々の日常の風景が印象的です。
丹念に描かれた細部が重石になって、
それほど長い描写でなくても、
しっかりと脳裏に焼き付いて離れません。

「泣かないでルース、ただのエディとママじゃない」
このセリフが好きで、忘れられません。
なんてことのない日常のなかで、
ふっと蘇ってしまう言葉です。
辛いとき、大人だって誰かに支えてもらう必要があります。
そんなときにこの言葉を思い浮かべれば、
泣くのをやめようと思えます。

ストーリーが面白いので、
どんどん読めちゃう小説。
特に後半のエディが笑えて楽しいです。

2009年10月15日 16:06

今日はキッド・ピストルズでお馴染みの、
山口雅也氏の長編小説です。

この『生ける屍の死』はキッドやピンクが現世界アメリカに現れたら、
という主人公たちの物語で、
葬儀場が舞台となっています。
アメリカの葬送のしきたりやエンバーミング技術など、
道具立ても面白くて飽きさせません。

とくにグリンとチェシャには泣かされます。
破天荒なミステリで、コメディタッチで書かれている本作ですが、
主人公たちのパンクファッションに込められた(隠された?)心が見えると、
ホントに涙がでそうになるから不思議です。

面白いカラクリや人情に飢え、厭世的な気分におさらばしたい人にはオススメ。

2009年10月 1日 16:48

大好きな宮部みゆきです。
他にも沢山紹介したい小説がありますが、
今日はとりあえずこの作品を。

これはある殺人事件をめぐる人々のお話を、
それぞれの登場人物の持つ『財布』が語る。
という妙な小説です。

こういうお話って、なんともたまらなく好きなんです。
平山夢明の『独白するユニバーサル横メルカトル』みたいな
(アレって面白いっすよねぇ)。

そしてそれが宮部みゆきの手なると、
よぉしゃべるんですわぁ、その財布たちも。
こう何て言うか、
ベテラン刑事の取り調べでうたいまくる犯罪者のようとでも言いましょうか?

まさにこれぞ『物語』という作品です。

2009年9月30日 14:45

スウェーデンの女性作家の作品です。
スウェーデンって、あんまり馴染みがないなぁ。
スモーガスボードとかボルボとかサーブとか、そんな感じかぁ、
と読み始めましたが、
コレが面白い!

この作者、
ななんとあのアストリッド・リンドグレーンのご親戚だとか?
おぉ、スウェーデン馴染んでいたではないかと、
思い当りました。
子供のころ、どれだけリンドグレン作品で励まされたか。
やかまし村に長靴下ピッピ、大好きでした。

この作品は、
ホームレスとなった女性の過去の現在、
そして未来をも予見させるミステリです。
路上生活について丁寧に描き、
精神の揺れ動く様をみごとに表現しています。

今後の活躍が楽しみな作家です。